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vol.10【社会を動かした女性たち(6):メアリ・シェリー】

「フランケンシュタイン」と聞けば、青白くツギハギのおぞましい顔を持つ怪物男の姿が思い浮かぶでしょうか?映画やドラマの主人公として取り上げられ、今ではすっかり人間が創り出した怪物の代名詞となっています。今回はフランケンシュタインの生みの親である英国人女性作家メアリ・シェリー(Mary Shelly, 1797-1851)の人生を追ってみたいと思います。

前回取り上げたメアリ・ウルストンクラフトの次女として誕生したメアリ・シェリーは、生後間もなく母親を亡くし、継母との生活を余儀なくされます。彼女は政治思想家であった父親のウィリアム・ゴドウィンの元に集まる急進的な思想家たちと交流を持ちました。その中の一人、詩人のパーシー・ビッシュ・シェリーと幼くして出会い、なんと妻帯者である彼と16歳の時に駆け落ちしてしまいます。父親が自由恋愛を推奨していたにも関わらず、娘の結婚には反対したからです。メアリはパーシーの妻が自殺した後に結婚して子どもをもうけますが、相次いで亡くなってしまい、悲嘆に暮れます。


メアリはパーシーとともに、義理の妹クレアの愛人であった詩人のバイロン卿が所有するスイスのディオダティ荘にて、怪談を創作して披露する機会を持ちました。それがきっかけで完成した小説が『フランケンシュタイン、あるいは現代のプロメテウス』(1818)です。パーシーが早々と怪談づくりを諦めてしまった一方、メアリは時間をかけて構想を練り、『フランケンシュタイン』を完成させられたのは、文筆家であった両親、特に母親に対する想いと彼女が残した作品の影響を受けていたからでしょう。

実は彼女の作品に登場する「フランケンシュタイン」は、怪物の名前ではなく、怪物を生み出した青年の名前でした。彼は科学の力で生命をつくり出した訳ですが、出来上った怪物が恐ろしくなり、見捨ててしまいます。作者に捨てられた怪物は、当初は優しい心を持ち、自分の力で言語を習得しながら「人間性」を獲得していきます。しかし、青年に自分のパートナーとなる女性をつくってほしいと頼み、断られたことから、青年の家族や恋人を次々と殺していってしまいます。

皆さんはこの作品からどのようなことを感じ取るでしょうか?私はいつの社会でも、怪物をつくり出すのは人間自身だ、そんなメッセージをこの作品から受け取れる気がします。作中には何人かの女性が登場しますが、いずれも怪物に殺されたり、病に侵され亡くなったりして、悲惨な死を遂げています。彼女たちはまさに、母親の不在・子どもの喪失を経験したメアリの心の中の闇や、男性中心の社会で軽んじられていた女性の存在そのものを表している気もします。

『フランケンシュタイン』は単なるゴシック小説ではなく、読者によって様々な解釈ができる作品と言えるでしょう。メアリ・シェリーをはじめ、当時匿名で作品を発表していた女性作家たちが残したメッセージを受け取り、それを現代社会の問題に置き換えて考えることが私たちの使命であるように思えます。亡くなってからも社会に影響を与え続ける女性たちが、歴史の中には確かに存在していると言えるのではないでしょうか。


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